2013/07/05

草野心平 「富士山」


『富士山』作品第壱/草野心平

麓には桃や桜や杏さき。
むらがる花花に蝶は舞ひ。
億万万の蝶は舞ひ。
七色の霞たなびく。

夢みるわたくしの。
富士の祭典。

ぐるりいちめん花はさき。
ぐるりいちめん蝶は舞ひ。
昔からの楽器すべては鳴り出すのだ。
種蒔きのやうに鳥はあつまり。
日本のすべての鳥はあつまり。
楽器といっしょに歌ってゐる。

夢みるわたくしの。
富士の祭典。

七色の霞は雪に映え。
七色の陽炎になってゆらゆらする。
鹿や猪や熊や馬。
人はゐないか人もゐるゐる。
へうたんの酒や女の舞ひ。
標野(しめの)の人も歌ってゐる。

ああ。
夢みるわたくしの。
富士の祭典。

遠く大雪巓からは黄鳥(くわうてう)が。
使者になって花を啣へて渡ってくる。
三つの海を渡ってくる。


http://kawaiikoennui.tumblr.com/post/9668809739


心平さんは蛙の人であるが、富士山の人でもある。

詩とは何か・・・人生をかける価値のある謎である。

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