レンズ設計の歴史が大きく変わり始めている。
もともとレンズの設計しやすい標準域は、一眼レフが主流になってからダブルガウス型が不動の地位を占めてきた。
それ以前のミラーのないレンジファインダーカメラの頃はゾナーにやや軍配が上がる状況ではあったが、一眼レフのバックフォーカスの身近さがゾナーには不利に働いた。
ゾナー対ズマール、大口径レンズ競争
第二次世界大戦前の時点において、ダブルガウス型大口径レンズの代表的存在はズマール50mmF2、非対称型の同じく大口径レンズの代表的存在はゾナー50mmF2であった。
当時、
- ダブルガウス型はその対称性により歪曲収差が抑えられている。一方、ゾナーは非対称のため比較すると歪曲収差が大きい。
という点はダブルガウス型が有利であった。しかし、
- ダブルガウス型においてコマ収差を充分に抑える手法が未発達であった。一方、ゾナーはコマ収差をよく抑えていた。
- ダブルガウス型は空気面が多く、コーティングが発達する以前の当時は反射の点でも不利であった。一方、ゾナーは貼合せにより空気面を減らしていた。
といったようにゾナーに軍配が上がる点が多く[2]、特に入射角度15から16度の画面中央に向かう光束についてゾナーのコマ収差はズマールの半分程で、開放からシャープなレンズという定評が出来、大口径レンズではダブルガウス型はゾナーに一歩引く扱いであった。
戦後、前述のようなダブルガウス型に不利な点は新しい硝材と設計手法やコーティングの発達により克服されてゆき、ダブルガウス型は大きく発展していった。1950年代前後に日本で起きた大口径レンズ競争では、この両者が有力な選択肢となった
一眼レフカメラとともに発展
レンズ交換式カメラの主流がレンジファインダーカメラに代わって一眼レフカメラになって来ると、ミラーの可動域を確保するためバックフォーカスがある程度必要であり、バックフォーカスを短くできないゾナーは標準レンズとしての使用が難しくなった。またコーティング技術の発達により群の数が多くても大きな欠点とはならなくなって来た。これらのことから次第に有力な選択肢となり、標準レンズや大口径望遠レンズのほとんど全てがダブルガウス型で設計されるようになって行った。
とまぁ、かくなる経緯で標準から、準望遠(85mm)、準広角(35mm)まで、ダブルガウス型が標準としての地位を確保してきたというわけだ。
ところが、50年以上続いた状況の潮目が完全に変わった。割って這い入ってきたのはレトロフォーカスだ。
この形式は広角レンズに使われる形式で望遠レンズをひっくり返したような構成を持つ。この形式が採用されるに当たっての詳しい事情は、本家といってもいいツアイスに聞いてもらおう。
Carl Zeiss Milvusシリーズ
ツァイスとコシナによる共同開発はどのように進められたか?
MTFを見ると明らかに新しいディスタゴンタイプのものの方が開放時は解像性能が高いのは一目瞭然だ。
今までは、標準域のこの性能の劣化は当たり前のこととして撮り方で対応してきたわけだ。逆に言えばこの性能劣化を使いこなしていたともいえる。
確かに、広角域では、画面周辺部までしっかり結像する必要がある。ただ、標準域のように主題が明確である場合は、背景を整理したい場合も多いのだ。そのようなときダブルガウスの性能劣化部分が逆に活きる。
今後、標準域のダブルガウス形式のレンズが出るとは思えないので、もし手持ちがないのならば、中古で充分なのでダブルガウス形式のレンズは一本もって老いた補王が良いね。ぼくはそう思う。
このあたりの感性の違いは、AF以前、以後で違うのではないかと感じる。
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