「嵐と蟇」 『第百階級』 草野心平 昭和3年11月
風はウの字とジの字とビの字の連続を弾入して
づ太い雨の傾斜線が背中を打つ
はねかへり泡立つ
俺は黙っている
俺は動かずにいる
打たれている
雨は土に対する無表情で俺にくる
俺はだから実にのんびりしたあけっぱなしで
三段空の交響をヂカにしてゐる
雨は降りたいだけ降る
俺は打たれるだけ打たれる
僧主のあたまのやうな無常は俺を去って行った
天体の激発は喜びにすぎない
稲妻はヒステリヤの極
雷は突貫の陣太鼓
俺のからだは火事のように暑苦しい
天の激動は彼らへの憤怒を百倍する
俺の中を俺たちの怒号が駆けめぐる
突貫の陣太鼓!
だが 俺は知っている
俺たちとは何者であるか
俺たちの肉体即ち最も偉大なるべき武器どんなものであるか
ああ 俺たちには無関心なあらゆる全体
勝手にすぢ張る稲妻のヒステリヤ
勝手に打ちならす突貫の陣太鼓
草野心平氏は 1988年 没と大変長生きされたため著作権の消滅までまだ時間がかかります。でも、著作権が切れるまで待ってると 歴史に埋もれてしまいます。第百階級は彼の処女作であり彼の代表作です。全編、蛙たちに生活を語らせています。
草野心平詩集草野心平著 入沢康夫編 岩波文庫
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