本屋に吉本の体系的なインタビューが売れ残っていたので買ってきた。二年たつが一刷りのままだ。
今更、吉本自らの解説を聞くのもなんだか気が進まないまま買いそびれていた本だ。
今の子達は、時代と格闘し続けた吉本の名を知っているのだろうか?
おそらく知らないのだろうと思う。それもそうだ、語って聞かせるべきぼくらの世代でも語れるものが極めて少ない。しかし、このまま、世の中の有様について真剣に考えるという経験がない子たちばかりになると、将来、どんな世の中になるのか本当に心配になってくる。彼の主著は、三冊。
なのだが、これらは、最後のものを除いて、文庫Kindle版で簡単に手に入る。
しかしだ。これだけ読んでもなんのことやら、さっぱり、わからんだろう。言語学の本でも、社会学、民俗学の本でも、心理学の本でもない。
文芸批評がいかに可能なのかと言うことを根っこに立ち返って考えたと言う本だ。こういう方法は吉本の癖だ。なので、文芸批評、文明批評に関心のない人には縁のない本なのだが、ここに戦後の社会思想の潮流との対決が含まれているところがミソだ。
戦争責任、左翼、右翼そんな大事な話が奥の方で煮っまったごった煮で出てくる。大事なのだけど背景を知らないとメッチャわかりにくい。読んでも理解したことにならないと言ういやらしい本だ。
でも、彼はいつも議論の真ん中に居た人なので彼だけを追っかけて人間関係を整理すれば戦後の思想史の変遷がよくわかるだろう。若い子にはぜひチャレンジしてもらいたいというか、語り継ぐのは僕たちの責任なんだろうね。他人事ではない。
ぼくが彼の著作で一番多くを学んだのは、
今は一冊にまとめられている
時論集なのだが、彼の原理原則を知っていると、時局批判にこう言う展開をするのかと膝を打つことが多かった。ぼくは他の原理原則を持って居たので、からなずしも賛意を覚えることばかりではなかったけど、ケンカの仕方を教わったようなものだった。
購入した、二冊は、ロックミュージック評論家の渋谷陽一のインタビューに答えたもの。体系的な問題設定で吉本も率直でわかりやすく語っている。渋谷の問いも的を得たもので肝を冷やした。音楽批評家恐るべし!上巻は、主著を語ったもの。下巻は時論だ。良いものだと思う。吉本を学びたいと言う危篤な若者がいるのならまずはこいつらを手にするのが一番の近道かもしれない。サボってたぼくと同世代のオヤジでもこれを押さえておけば吉本を端から端まで押さえているように子に語ることが出来るかもしれない。
間違っても、安直に他の人の吉本論などから入ってはいけない。読み違えている本のいかに多いことか。自分の力で彼の語っていることの意味を読み解くことに意味がある。
一種の修行のようなものだ。
この吉本の語った程度のことを押さえたくらいでは将来を考えるにはどうしようもないという高みにぼくたちがたっていることは間違いない。
それでも浮ついた表層だけを追い求めていたのでは本質を見落としてしまう。
吉本が、そういう大事なことの意味について、生涯を賭けたのは間違いない事実だ。
誠にもって難儀なくらい粘着質な男で尊敬に値する。
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