2013/12/28

『炎える母』 宗 左近

 まず、靖国などへ行く前に、自分の足下で亡くなり、無視され続けた人達、断腸の思いに焼き焦がされ生き地獄に住みつづけることを余儀なくされた人達に思いをはせよと言いたい。
 著者の目からは、血の涙が止めどなく溢れ、毛穴からも血の汗が滲み出している。
 

炎える母 (愛蔵版詩集シリーズ)

宗 左近 (著) 宗左近さんの詩の捨て身で描かれている静かさ より引用
走っている 
宗左近
走っている
火の海の中に炎の一本道が
突堤のようにのめりでて
走っている
その一本道の炎のうえを
赤い釘みたいなわたしが
走っている
走っている
一本道の炎が
走っているから走っている
走りやまないからはしっている
わたしが
走っているから走りやまないでいる
走っている
とまっていられないから走っている
わたしの走るしたを
わたしの走るさきを
焼きながら
燃やしながら
走っている走っている
走っているものを追いぬいて
走っているものを突きぬけて
走っているものが走っている
走っている
走って
いないものは
いない
走っていないものは
走っていない
走っているものは
走って
走って
走って
いるものが
走っていない
いない
走って
いたものが
走っていない
いない
いるものが
いない
母よ
いない
母がいない
走っている走っていた走っている
母がいない
母よ
走っている
わたし
母よ
走っている
わたしは
走っている
走っていないで
いることが
できない
ずるずるずるずる
ずるずるずる
ずりぬけてずりおちてすべりさって
いったものは
あれは
あれは
すりぬけることからすりぬけて
ずりおちることからずりおちて
すべりさることからすべりさって
いったあの熱いものは
ぬるぬるとぬるぬるとひたすらぬるぬるとしていた
あれは
わたしの掌のなかの母の掌なのか
母の掌のなかのわたしの掌なのか
走っている
あれは
なにものなのか
なにものの掌の中のなにものなのか
走っている
ふりむいている
走っている
ふりむいている
走っている
たたらをふんでいる
赤い鉄板の上で跳ねている
跳ねながらうしろをふりかえっている
  母よ
  あなたは
  炎の一本道の上
  つっぷして倒れている
  夏蜜柑のような顔を
  もちあげてくる
  枯れた夏蜜柑の枝のような右手を
  かざしてくる
  その右手をわたしへむかって
  押しだしてくる
  突きだしてくる
わたしよ
わたしは赤い鉄板の上で跳ねている
一本の赤い釘となって跳ねている
跳ねながらすでに
走っている
跳ねている走っている
走っている跳ねている
一本道の炎の上
母よ
あなたは
つっぷして倒れている
夏蜜柑のような顔を
炎えている
枯れた夏蜜柑の枝のような右手を
炎えている
もはや
炎えている
炎の一本道
走っている
とまっていられないから走っている
跳ねている走っている跳ねている
わたしの走るしたを
わたしの走るさきを
燃やしながら
焼きながら
走っているものが走っている
走っている跳ねている
走っているものを突きぬけて
走っているものを追いぬいて
走っているものが走っている
走っている
母よ
走っている
炎えている一本道
母よ

以下 四天王寺小説道場 さんより引用

「走っている その夜14)」
 前段略
 一本道の炎の上
 母よ
 あなたは
 つっぷして倒れている
 夏蜜柑のような顔を
 炎えている
 枯れた夏蜜柑の枝のような右手を
 炎えている
 もはや
 炎えている
 炎の一本道 後段略

 「炎のなかの白」
 前段略
   ワタシハハハヲオキザリニシタ
 母が両腕をひろげてさしのべると
 すばやく炎はその裸体のすべてでまつわりついた
 母が呻いて身をくねらすと炎の裸体は
 青く喘いで透明な血の管を耀わせた
 わたしの閉じた瞼の裏でそれは瞼を震わせて
   ワタシハハハヲオキザリニシタ 後段略

 「骨を焼く」
 母の焼けてしまった身体を
 焦げた丸ごとの鰹みたいになってしまった身体を
 なぜ人々はもう一度焼かねば気がすまないのだろうか
 わたしはもちろん拒絶するしかし身をもって
 鰹みたいに口をとがらせて死にたえている母の身体に
 すがりつきかきいだけなかったわたしだから
 わたしは顔中をデスマスクとるための石膏のように
 全面埋めつくした白い繃帯の下にかくれて
 そこにしのびこんでくる青い闇のなかに息をつめ
 その必要もないのに更に目をきつくとじて
 (いまさら何を見たくないというのかおのれの生命を
 わかち与えたものを生きながら焼いてなめつくして
 青白くも鱗粉にまみれた炎の舌をおのれのない心の
 かわりに見てしまった夜があけない光のなかに)
 ガチガチ歯が鳴り出そう鳴り出そうとするのをただ
 こらえることでわたしはわたしをいっぱいにしている
 ああ母はもういないのだいないのだわたしが少しだけ余分に
 この世のなかにいようとしたそのためだけに
 母のなかの炎は母のそとの炎と一緒になって
 燃え出ていってしまったのだからわたしのなかの炎まで
 招きよせていってしまったのだからわたしはこんなに
 ガチガチ歯と心を鳴らして冷えていこうとしているのか
 後段略
 「呪ってください」
 母よ呪ってください息子であるわたしを
 あなたを生きながら焼いたことをではなく
 あなたを生きながら焼いたにもかかわらず
 そのことのために生きながら焼かれていないわたしを
 今度はわたしを当然生きながら焼いてくれなければならない
 はずのものである神みたいなものあるいは
 あなたの信仰している仏みたいなもの
 審きのなさを収めて静もりかえっている白々しい白内障の空を
 呪ってください審きのないからには母よ
 後段略


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